台風一過を狙って槍ヶ岳西稜に登る予定でした。しかし19日夕方に地震にあったので登攀はしていませんが、地震にあったときの様子を記録に残します。
メンバー:平井(CL)、吉武(食糧)、石川(記録)
日程:9/18 上高地-小梨平キャンプ場 / 9/19 小梨平キャンプ場-殺生ヒュッテ / 9/20 殺生ヒュッテ-上高地
本来ならばこの計画は17-21で槍の西稜+滝谷の計画だった。
けれど17-18日で台風が日本列島を通過するということで、急遽18-21で槍の西稜に変更した。
滝谷に行けないのは残念だったが、結果として本当にラッキーだった。
18日は雨予報だったので遅めの上高地入山。松本でカモシカに行き、山賊焼を食べる。
このとき入ったお店の山賊焼がとんでもなくボリューミーだった。おいしいのでみんな行ってほしい!
19日はいい天気。
リーダーの大ちゃんは初槍ヶ岳、まなちゃんは初晴れの日の槍ヶ岳ということで、ついこの間ド快晴の北鎌尾根・前穂北尾根を満喫した私までこの天気は嬉しかった。
重い荷物を担いで3人ともヒーヒーしながら登った。
やっと槍が見えて、殺生ヒュッテを通り過ぎる。
雲一つ無い快晴で、台風のあとを狙って沢山の人が槍を目指していた。
槍ヶ岳山荘のテン場を狙うべく、ペースをあげて歩く。段々楽しくなってきて目の前にいる人全員抜く!という気持ちで歩いていたら、抜かした人にすげ・・・と言われること3回ほど。あと少し!と意気揚々としていた山荘まで残り400mのところで、下山してきたおじさまに「もう上のテン場いっぱいですって張り紙貼ってあったよ」と告げられる。嘘でしょーーー。下にいるまなちゃんにもういっぱいだよと叫ぶ。谷に反響してちょっと恥ずかしかったけど、同じく槍ヶ岳山荘を目指していたテン泊勢に大いに貢献しただろう。
私はテン場がいっぱいなのを信じられなくて、しばらくその場に留まっていたけど、上からテントを張れず降りてきた方がいたので、渋々殺生ヒュッテに降りた。
テントを干して、小槍の取り付きの偵察に行く。
穂先にも行くか〜と思ったけれど、とんでもないぐらい渋滞していたので辞めた。
アプローチの入口は、1個目の梯子の手前。思っていたよりもザレ&ガレだった。どこまで降りればいいのだろう?と思うほど下まで続くルンゼだ。小槍の取り付きはここからでは見えない。
偵察を終え、山荘に戻る。孫槍に登っている人もいた。
今日は本当にいい天気で、大気の層がくっきり分かれていたため、ガスが槍に湧き上がることはなかった。なんか今日登っても良かったね〜。小槍だけなら登れたかな、なんて話していた。
とはいえ殺生ヒュッテまでの登りで疲れていたし、偵察には手ぶら。裏銀座の山々を眺めながら軽く乾杯。殺生ヒュッテに戻る。降りる頃には殺生ヒュッテのテン場は沢山のテントが張られていて、私たちの周りもいつの間にか何張りも増えていた。
私たちはテントのそばで夕飯を作ろうとしていた。まなちゃんと大ちゃんは水汲み&トイレで小屋へ行っていた。
空がぼんやりと色づいてきた17:20頃、地面が揺れた。同時にドーンと大きな音。地震だ。縦に1回揺れ、すぐさまもう1回揺れた。火をつけたガスを止めると、背後でガラガラガラと凄まじい音を立てて岩が落ちてきた。
穂先から、東鎌尾根から、大喰岳から。3方向から同時に落石が発生した。大小様々の岩が飛び跳ねてこっちに向かって来る。飛騨乗越あたりから、人間ほどの大きさの岩がゴロゴロと登山道の方へ転がっている。砂煙があちこちで立ち、音が鳴り終わらない。
周りにいた人みんなが、立ち上がっていた。
立ち尽くす人、動画を撮る人、グループで固まる人、小屋の方へ逃げる人。
私も岩がこっちに向かって来るのを見つめることしかできなかった。生きるためにはどうすればいいの?正解を教えてくれる人なんていなく、岩が止まってくれることを祈るだけしかできない。
揺れと落石音が収まってから、すぐ近くにあった自分とまなちゃんのヘルメットと登山靴を持って、小屋の方へ走った。(大ちゃんのヘルメットは見つけられなかった・・・)無事な2人の顔を見たら泣きそうになった。なんで人って怖いと涙が出るんだろうなって、そんなこと考えてる場合じゃないのに考えてしまう。
そこから度々揺れと落石が頻発する。登山道にまで落石が生じていた。幸いにもテン場まで落石は無く、誰も怪我人もいなかった。
徐々にテン場が落ち着き始め、私たちも夕食を食べることにした。
私たちのテントよりもっと槍側に張っている人は、テントを小屋側に移していた。
今すぐにもこの場から立ち去りたいが、真っ暗の中いつ落石が起きてもおかしく無いこの状況で無事に下山するのは不可能と判断し、殺生ヒュッテで一晩明かすことに決める。
日が沈んでからも揺れと落石は収まらなかった。
幸いにも月明かりがあったので、遠くまで見ることができた。大喰岳の方は雪渓ごと崩れていた。
19時ごろ、とんでもない音を立てて、東鎌尾根側の斜面が崩れた。暗闇の中、岩がこちらに迫っていてこの時は本当に本当に怖かった。近くに居たまなちゃんと2人でヘルメットを被って少しでも斜面から離れようと逃げた。見えないとどうしようもできない。私は見てなかったけど、この崩落のときは火花が散っていたらしい。
多分20時ごろまで1時間に3~4回は落石が起きていたと思う。槍ヶ岳山荘から、殺生ヒュッテに降りて来るヘッドランプの光がいくつかあった。
SNSを見ていると小槍の一部が崩落したという情報が流れていた。偵察のとき、ギア類を持って行くか悩んだけど持っていかなくて本当に良かった。持って行っていたら天気も良いし小槍ちょっとやろうよってなっていたに違いない。
こんな状況でテントの中で寝れるはずもなく、テントを畳み、いつでも逃げられるように荷物はまとめ、3人で外で寝た。私は家を出る直前にダウンとニット帽を追加して持ってきたため、暖かく過ごせた。本当にラッキー。
チュンチュンと鳥が夜中中に鳴いていて不気味だった。山側からの吹き下ろしの風の音が落石の音と似ていて怖かった。夜中も2回ほど小さな揺れと、上高地側で落石音がした。
夜中にトイレに行くと、ヘリポートにテントを移した人や小屋の外のベンチで寝ている人など様々だった。
無事に朝を迎える。
こんな状況だけど睡眠欲には負け、途中寝ていた。けど、目が覚めては時計を見て夜明けまでの時間を計算しては、早く明るくならないかなと願っていた。
7時前にはテン場にいた半分以上の人が下山し初めていた。ヘリがずっと飛んでいた。後から知ったが、きっとこのヘリは北鎌にいた人を救助しに行ったヘリだと思う。
私たち含め、槍沢を下山しているほぼ全員がヘルメットを着用していたのが印象的だった。
けれど登って来る人も結構いて、落石怖かったですよ!今は危ないですよ!ってみんなに言いたかった。
横尾を過ぎたぐらいで、ドーンという大きな音と揺れ、落石の音が遠くで聞こえた。
徳沢園は多くの人に溢れかえっていた。昨日の落石なんて無かったんじゃないかというぐらい、賑わっていた。
台風で滝谷を辞めたこと、槍ヶ岳山荘のテン場がいっぱいだったこと、2日目に小槍に登らなかったことなど不幸中の幸いが沢山あった。
今回は夕方に地震があったけれど、これが行動中の日中だったと思うとゾッとする。改めて自然の恐ろしさを身をもって体験した。正直冬まで北アルプス南部には近づきたくない。
帰宅してから、涸沢や北鎌尾根上で地震にあった方の動画を見たが恐ろし過ぎて、もし自分があの場にいたら冷静になれただろうかと思う。特に北鎌は8月に歩いたこともあって、恐ろしくてたまらない。
山で1番怖いのは雷だと思っていたけど、予測不可能な地震なのかもしれない。
その場に居た皆さま、ご無事で何よりです。お疲れ様でした。
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