2023/2/18 錫杖岳 注文の多い料理店

山行報告
  • 期日: 2023/2/18
  • 天候: 雪→あられ→雨
  • 参加者: ジョバンニ、ブドリKG見、N村又三郎、A井
  • 行程: 0500中尾高原口駐車場-0830注文の多い料理店取付き-1730下降開始-1850クリヤ岩小屋-1935中尾高原口
  • 装備: キャメロット0.2〜5/1セット+α、トライカム、ナッツ、クイックドロー×10くらい、イボイノシシ×2(使わず)、ハーケン×2(使わず)、マイクロトラクション、タイブロック、50メートルダブルロープ×2

小さな錫杖沢の底を写した二枚の青い幻燈を見て下さい。

4人の若い紳士が、ボロボロのアックスをかついで、だいぶ山奥の、木の葉のかさかさしたとこを、こんなことを云いながら、あるいておりました。

「ぜんたい、ここらの山はけしからんね。岩も氷もたくさんありやがる。なんでも構わないから、早くタンタアーンと、バイルでぶっ叩いてみたいものだなあ。」

一年ぶりの冬の錫杖の前衛壁!やっぱりテンション上がりますね(^^)

それはだいぶの山奥でした。それにあんまり山が物凄いので、4人いっしょにめまいを起こして、しばらく唸って、それから泡を吐いて死んでしまうくらい興奮していました。

クリヤ谷岩小屋から前衛フェイスに上がり、3→2→1ルンゼの順に基部をトラバースしていく。

「ではみなさんは、そういふうに川だと云われたり、乳の流れたあとだと云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」

そんな先生の問いかけに、

そんなこと書いてたら松本零士先生の訃報が…。ご冥福をお祈りします。ちなみに1ルンゼは登れそうでした。

「そんなの1ルンゼのことに決まっているだろう、答えるまでもねえよ」と、トラバースを続けるジョバンニ一行。

その様子を白壁の天上で待つカムパネルラが静かに見守っている。

A井さんのペースがあまりに早いので、はじめの紳士(ジョバンニ)は、すこし顔いろを悪くして、じっと、もひとりの紳士(ブドリ)の、顔つきを見ながら云いました。

「ぼくはもう戻ろうとおもう」

「さあ、ぼくもちょうど寒くはなったし腹は空いてきたし戻ろうとおもう。」

「もうあんまりあるきたくないな。」

「あるきたくないよ。ああ困ったなあ、何かたべたいなあ。」

二人の紳士は、ざわざわ鳴る北沢の森の中で、こんなことを云いました。

※この物語はフィクションです。実際にはトレースがバッチリあり、雪もしまっておりアプローチは楽勝でした。

その時ふとうしろを見ますと、立派な一軒の西洋造りの家がありました

そして玄関には上に黄いろな字でこう書いてありました。

「当壁は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください」

1ピッチ目。A井リード。Ⅳ級→5.8/40m。

無雪期の1ピッチ目は半分くらい埋まっているので、トポの1・2ピッチ目をリンク。

2ピッチ目にあたる下の写真のところが核心か。

A井さんは連日の残業からの寝ずの週末を迎えたにも関わらず、安定のクライミングで何事もなく突破。

https://chigasaki-alpine.club/wp-content/uploads/2023/02/FullSizeRender-1.mov

雨にも負けず、風にも負けず、雪にも激務にも負けず、丈夫な身体をもち、いつも静かに笑っている、そういう者にわたしもなりたい。

あ、ちなみにA井さんって穴井さんのことです。

2ピッチ目。ジョバンニ。5.9

細かすぎる出だしを無事越えて、ルーフクラックのパートはあれよあれよとハンドジャムが決まり、足も拾えて何だこんなものかと思ったのも束の間、

「どうもおかしいぜ。」

抜け口のパートで、

うわあ。」がたがたがたがた。

「うわあ。」がたがたがたがた。

2回ほどレイバックに失敗してドカ落ち。挙句の果てに体力を使い果たしカムエイドでも上がれない始末…。

出だしのフッキングからルーフのジャミング、レイバック、ワイドと注文があまりに多すぎるの。

ジョバンニは、あんまり心を痛めたために、顔がまるでくしゃくしゃの紙屑のようになり、ぶるぶるふるえ、声もなく泣きながら登りました。

泣いて泣いて泣いて泣いて泣きまくった挙句、汗冷えで寒さにぶるぶる震えて、テラスの上に立っていました。そこでやっと安心しました。

3ピッチ目。N村。5.9

どっどど どどうど どどうど どどう

この辺りからすごい勢いでひょうだかスノーシャワーが降り注ぎはじめた。

ここもクラックが広めで、しかもスカ氷が詰まっており、難しいピッチだ。

やれやれだぜ。

どっどど どどうど どどうど どどう

そんな状況のなか激しいクライミングを制した関西の若き逸材。

そこにシビれる!あこがれるぅ!

やっぱりあいつは風の又三郎だったか…

https://chigasaki-alpine.club/wp-content/uploads/2023/02/FullSizeRender.mov

夕闇が迫り、ここで時間切れ。ブドリさん、リード回せずすみませんでした。懸垂2回で取り付きへ。

そんな彼の犠牲のおかげか、焼岳は噴火し温室効果ガスによって気温が上がった影響で(嘘です)、下降時にはあられが雨に変わり一同ずぶ濡れ。冷えた身体を温めるべく、ひらゆの森へそそくさと向かいました。

しかし、さっき一ぺん紙くずのようになったジョバンニの顔だけは、神奈川に帰っても、お湯にはいっても、もうもとのとおりになおりませんでした。

冬の錫杖はクライマーたちのイーハトーブ。とても楽しいクライミングでした。また来年リベンジしましょう!

私の幻燈はこれでおしまいであります。

記: ジョバンニ

出典:

  • 宮沢賢治 「新編風の又三郎」新潮文庫、新潮社 『やまなし』
  • 宮沢賢治 岩波文庫『童話集 風の又三郎』
  • 宮沢賢治 「注文の多い料理店」新潮文庫、新潮社 
  • 宮沢賢治「新編 銀河鉄道の夜」新潮文庫、新潮社
  • 宮沢賢治 「【新】校本宮澤賢治全集 第十三巻(上)覚書・手帳 本文篇」 『雨ニモマケズ』
  • The Jimi Hendrix Experience 「Little Wing」(Axis: Bold As Love)
  • The Jimi Hendrix Experience 「All Along the Watchtower 」 (Electric Ladyland)
  • 荒木飛呂彦「ジョジョの奇妙な冒険」

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