メンバー:L.鈴木、浦野
ルート:室堂~源次郎Ⅰ峰平蔵谷フェース(成城大ルート)~剱尾根(R4/剱尾根上半)~チンネ(中央チムニー~aバンド/bクラック)~三ノ窓谷~黒四ダム
茅ヶ崎に入って以来、大好きな剱岳でも、会の仲間のおかげでいろいろなルートに足を運ぶことができた。今夏は久しぶりにまとまった休みが取れたので、浦野さんに付き合ってもらって欲張りプランを計画した。
つぎつぎと降りかかる試練💀に神経をすり減らしながらも、憧れ☀を糧に、なんとかゴールへたどり着くことができました。 既成ルートなのでルート内容は簡潔にし、もっぱら僕らが苦労したことを書きました。そういうのが苦手な方は読み飛ばしていただければ幸いです。
8/16 東京
今回は公共交通機関でのアプローチ。台風7号の関東直撃をうけ、高速バス乗り場に着くころには全身ずぶ濡れだ💀
黒四ダムから歩かず、室堂までバスで乗り付けるという安易な計画に、剱の神様がお怒りになったのだろう。でも聞いてください。チケットの発売日に大町ルートを予約しようとしたときには、すでに満席だったのです…!
8/17 室堂→源次郎尾根
雨具を着なくても困らないくらいの霧雨のなかを出発する。雨は昼には上がり、晴れ間が出る予報だ。のんびり行こう。
剱沢に降り立ってびっくり。本当に雪がすくない。というか、ない。草付のラインから雪面まで、標高差で10m以上はあるだろうか。途中から蟻地獄のようなガラ場を巻いて行き、平蔵谷の出合が見え始めるころ、なんとか雪渓に乗った。
今回、できれば下部フェース中央ルンゼからの継続で登りたかったが、昨年の崩壊と、この寡雪とで断念せざるを得ず、かわりに源次郎尾根はルンゼルートへ向かう。尾根ルートでのっけからA0させられるのは心外だし、フリーの神様のご機嫌を損ねるわけにはいかないからね。
ルンゼの出合はシュルントが開いていて近づけず、平蔵谷出合からトラバース気味に登った。
ルンゼに入ればフリクションの良く利く硬い岩で気分も上がる。
・・・が、核心の滝が近づくと本降りの雨に。昼から晴れるんじゃなかったのか。。
学生のときに敗退以来の宿題☀回収
滝を越えたあとは早めに右岸の草付を上がり、尾根ルートへ。
下地が削られたのか、尾根ルートの岩場はどこも結構悪く感じた。荷物も引っかかるし… 早く壁に取り付きたい…
ようやく見えてきた壁! 開放感溢れる壁!!
ただ、(とくに上部フェースだけを登る場合)アプローチが長い割には、岩の部分は短め。クライミングはあくまで山登りの一部(道草)というくらいの覚悟が無難に思う。
薮をわさわさして中央バンドに降り立つと、さっきまで降っていた雨のおかげで水を汲むことができた。ここまで水5Lを背負ってきたので悔しさ半分、プラティパス1枚がお釈迦になるという地味なアクシデントに遭っていた我々には嬉しい誤算。
取付へのアプローチはネット情報を参考に、「チムニー状の滝を越えた先で右上のハング下を目指す」でドンピシャ。
まだ日没まで時間はあるし、雨もやんだので、外出装備を背負ってルートに取り付いてみる。
トポの2ピッチ分を一気に登ると、早くも核心の岩場を視界に収めることができた。
空身ってすばらしい!
この調子なら、けっこうあっさり登れるかも。あわよくば今日中に壁を抜けて…
・・・なんて下心が天に見透かされたのか、トポの4ピッチ目入口からまたもや本降りの雨。水の流れるスラブになすすべもなく退却した。無念…
取付の岩棚をザックで拡張し、なんとか2人が横になれるスペースを確保してツエルトに潜り込む。
雨は容赦なく降り続いている。天気予報、アテにならないな。。
8/18 成城大ルート→本峰→三ノ窓
うつらうつらしているうちに目覚ましが鳴った。
幸い雨はやんでいる。剱沢を下ってくる灯りも見える。
パンパンの大ザックひとつと、外出装備の小ザックとに荷物をまとめ、まずは準備体操がわりのフィックスロープ登りから。
出だしは3級の岩場だが、大ザックを背負って体を持ち上げるのは重労働だ。すっかり明るくなる頃、ようやくハイマツテラスに達する。
ここからトップは空身、大ザックは荷揚げにしよう。
ザックはせいぜい20㎏くらいのはずだが、壁の摩擦は大きく、しっかり足で踏まないと上がってこない。ハンギングビレイ状態で踏ん張りが利かないので、上がってきたザックをアンカーへ移すのもひと苦労。ほぼ新品だった浦野さんのザックはすでにボロボロに。ごめん。。。
満を持して浦野さんのリードで!
そして核心ピッチへ。ムーブは5.9くらいとのことだが、脆い箇所もあり、怪しげなプロテクションでの立ち込み、ランナーの長さにも気を遣いながらのセットとどれも易しくない。ナイスリード!!
あとは、スタンスに被さる草でスリップしないように注意してハイマツ帯まで。
お互い、リードしたピッチより、小ザックを背負ってフォローしたピッチの方が悪く感じたようで、リードしたパートナーを称えあいながらの登攀となった。
5,6p目はヤブのなか、フォローが大ザックを背負っての登攀。藪を抜けて登山道へ倒れ込む。疲れた!!
亀の歩みで本峰を踏み、三ノ窓へ。
道すがら、単独でチンネを登ってきたというおじさんに出会う。そしてこれ以降下山まで、誰とも会うことはなかった。
計画では時間が許せばチンネ登攀の予定だったが、寝不足だし、重荷で疲れたし、水汲みもしないといけないので諦めよう。真っ平らな三ノ窓の天場で、明日も晴れが続くことを祈って就寝。
遠いが、アプローチの足場が安定しており水量もある
今年は雪はどこにも見当たらなかった…
8/19 R4→剱尾根上半→三ノ窓
ツエルトから首を出して驚いた。未明だというのに、後立山方面で入道雲が怪しくピカピカ光っている。そのすぐ近くでは、金星が青くなったり赤くなったりしながらまたたいている。こんなの初めて見た!
あまり縁起の良い兆しには思われないが、頭の上は晴れている。富山湾の夜景をながめつつ池ノ谷へ下降する。R4取付まで、一片の雪もなし。
このあたり、トポはあまりアテにならないが、残置支点に導かれて2pでルンゼに入ると、あとは概ね硬い岩の登攀で快適だ。個人的には4p目の逆層フェースが核心で、リードでなかったことにちょっと安堵した。ちなみに浦野さんは5p目のチムニーで同じ感想をもったそうだ。トップだと気合が入るのか??
ぐいぐい登るにつれ、チムニーで切り取られた空間に浮かぶ小窓尾根が低くなっていく。
地の底からの脱出行にも似た悲壮感には、無数のイワツバメが生命の華やぎを添えてくれる。
もちろんルートは、というより池ノ谷全体が貸し切り状態だ。
6ピッチ200m以上にわたって草付皆無の岩をフリーで登れるというスケールも申し分ない。
なんという贅沢!!
アプローチシューズで快適に進むと、再び左壁が覆いかぶさってきてその先が源頭のようだ。ふむふむ、トポにあるⅣ級の壁というのはこれだな。
ここで終わりなら、ただの、というか「超」がつくほどの快適ルートだったのだが…この壁は悪かった。。
それでも終わってみれば何とかなるものだ。
じつに充実の一本! 個人的には、このルートのおすすめ度はかなり高い☀ トレーニングに励んだ甲斐が十分にあった。
ドームの頂上は小広いイメージがあったのだが、今日はまったくのガスガスでどこが頂上だかはっきりしない。コンパス頼りに少し進むが、コルBへの下降点にも自信がもてない。。
まあそのうち晴れるだろうと、ジャンクションらしき場所で腹ごしらえをして待っていると、ふっと霧が途切れてコルBが目の前に見えた。見当をつけていた下降路はそのまま谷底へ向かっていて💀、正しくはもう5mくらい先のガレ場だった。危ない危ない。
コルBから立ち上がる岩場はロープレスで。続く左トラバースの入口はよくわからなかったので、ロープをつけて偵察。あとは浮き石に気を付けて剱尾根の頭を目指すだけ。
晴れていたら絶景なのにと思うと残念だが、ガスの中でもぐいぐいと高度を稼いでいる実感のある快適ルート。
浮き石が積み重なった最後の頂稜(剱尾根の頭)は、浦野さんの希望で巻きルートを選択。
「…ちなみに、その心は?」
「尾根ルートはなんとなく様子が想像できちゃったんで、悪そうな巻きルートを見てみたくて」
・・・さすがです☀
長次郎の頭からは昨日も通った道だし、荷物も軽いしで、登攀の余韻に浸りながらさくさくと三ノ窓へ帰着。今日は夕立が来そうなので(=ここまででだいぶ疲れたし)、チンネはやっぱりおあずけにする。それより偵察と水汲みをば。
雪渓の消えっぷりは驚きを通り越して恐ろしいほどだ。ガレ場は歩けたものではないので、ジャンダルム基部をからんでチンネとの間のルンゼへ。しかしそこから左稜線方面へは絶望的な蟻地獄が続いている。明朝の限られた時間でアプローチするのは無理でしょうってことで、無難に中央チムニー~aバンド~bクラックの予定を選択することにする。
思わず放言。
「こりゃ、岩と雪の殿堂じゃなくて、岩とザレの殿堂だな」
「…鈴木さん、、剱の神様が聞いてますよ?」
「…!!」
嘘です、今のはほんの言い間違えです、人類を代表して、このような気候変動を招いたことを心からお詫び申し上げます。どうか明日の登攀と下山が無事でありますよう、お守りください…!
8/20 中央チムニー~aバンド/bクラック~三ノ窓谷~黒四ダム
昨日の夕立は一瞬でやんでくれて助かった。
あっという間に最後の朝だ。もっともっと登りたいなぁ。
そんな僕らの頭を冷やすように、中央チムニー取付に着くとなぜか雨が降ってきた。
デザートのはずのチンネにも試練💀がついて回るのか?!
硬い岩。明瞭なライン。
雨は降ってはいるが、背後に広がる青空と後立山の稜線は今山行初めての絶景だ。
中央バンドに着くと雨もすっかり上がり、ピナクルの向こうには富山湾まで見えてきた。
これをご褒美と呼ばずしてなんと言おう。やっぱり剱の神様は見ていてくださったんだな。4日間頑張った甲斐があったというもんだ。きゃっほー!!
fクラック:断じてフリークライムのⅣではなかったと浦野さん談 必ずリベンジしよう ☀
しかし、ここはいささか調子に乗り過ぎたようだった。aバンドの入口を見落としたと勘違いし、挙句目の前のgチムニーを登ってみて、その先で行き詰ったりなんだり、1時間半も無駄にしてしまったのだ。なんという不覚!!!
悔しいやら恥ずかしいやらで頭がおかしくなりそうなのを必死にこらえ、ようやく見つけたaバンド~bクラックを無心で登り、浦野さん初チンネの喜びもないまま三ノ窓に戻る。
三ノ窓谷のポイントはノドの通過。昨日の偵察どおり、三ノ窓尾根を一段下り、小雪渓から流れ出す涸れ滝を下って巻く。10年前の夏、オンサイトでこの下降路を見出した自分にちょっと感心する。
さすが三ノ窓雪渓 スケールが違います
あとは痛む膝をストックで騙して二股まで下るだけ
…のはずだった。
でも剱の神様は聞いておられたに違いない。「岩とザレの殿堂」とかいうナメきった言葉を。
そして決意されたに違いない。このクズどもに「岩と雪の殿堂」の何たるかを思い知らせるまでは下界に帰すまいと。
「池ノ谷や長次郎谷の雪渓では、秋になるとクレバスが広がり通行不能になることがあるが、三ノ窓雪渓ではその心配はほとんどない。もし谷幅いっぱいにクレバスが開いても三ノ窓尾根に避けることができる(アルペンガイド18 立山・剱・白馬 2000年刊)」
…今は昔。秋になると、どころか8月上旬から長次郎谷の通行不能がささやかれる昨今、”国内最大の氷河”三ノ窓雪渓といえども例外ではなかったようだ。
剱の神様、よくよく思い知りました。岩と雪の殿堂の何たるかを。
もう二度とナメたことは申しません。どうか勘弁してください。。
・・・神の怒りは我々の想像を超えていたようだ。
万事休す。今度は崩壊した弱点もなければ、飛び越えられる幅でもない。
いよいよ三ノ窓尾根へ大高巻きか…よくて半日がかり…下山遅延確定…寡雪の雪渓を下るのに予備日を持ってこなかった罰か…💀
しかし往生際の悪い我々、諦めきれずに端から端まで偵察していくと、八ツ峰側のシュルンドが閉じているのを発見。
シュルンドへクライムダウン→ボラード懸垂でクレバスを横断→岩のバンドをトラバース→雪渓側面をダブルアックスで登り下流側へ復帰、のパズルで、辛くもこの難関を突破できた。
剱の神様、日本にいながらalpineなクライミングをさせていただき、ありがとうございます…!!
最後の試練💀最終バスに間に合わせるべく歯を食いしばって歩き、感動のゴールを迎えたのでありました。
欲張って詰め込んだルートは、それぞれに性格が違って、どれも素晴らしい内容でした。
行く前は、計画通りに登れたらもう夏の剱で登るところはなくなっちゃうんじゃないか(記念に三ノ窓の土でも持って帰ろっかなー)なんて余計な心配をしていましたが、まだまだ登るべき壁があることも確認できました☀
充実した山にふさわしく、反省点もたくさん持ち帰れたので、今後の山に活かしていきたいと思います。
浦野さん、お付き合いいただきありがとうございました!!
8/17 雨のちときどき曇り
室堂ターミナル730-1130平蔵谷出合-1230 F1, F2 1315-1445コルー1520成城大ルート取付、1600-1815フィックス工作
8/18 曇りのち霧
出発415-(50/35/25/20/30/25m)-950源次郎Ⅰ峰1015-1050源次郎Ⅱ峰-1200剱本峰1225-1445三ノ窓、1500-1600水汲み
8/19 晴れのち霧一時雨
出発420-500R4取付520-(50/45/40/40/40/30m)-925 6p目終了点-(歩き/25m/20m)-1120ドーム35-1150コルB-1315剱尾根の頭-1330長次郎の頭-1435三ノ窓、1510-1715偵察・水汲み
8/20 雨のち晴れ
出発355-440中央チムニー取付(40/40m)-600?中央バンド(歩き/gチムニー・fクラック敗退/45/20m)-820チンネの頭830-900三ノ窓915-950雪渓に乗る-1240雪渓下りる-1250北股出合-1300近藤岩-1430ハシゴ谷乗越-1525内蔵助平-1630内蔵助谷出合-1725黒部ダム駅
●あってよかったもの:ポカリ粉末(2倍に薄めて一晩かけて飲めば脱水解消)、封筒型レスキューシート(驚きの暖かさ。蒸れるのでメッシュ下着のみになって入るのがよさそう)。
●いらなかったもの:シュラフ、シュラフカバー。
●使用ギア:カム#0.2~#2、ナッツ、ハーケン。
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